隔たりのないアート
子どもに絵の描き方を教える方がよいか
~幼児の絵の見方~岡田 清著
学校に行っても、遅れをとらぬように。
お母さんは坊やのことで一生懸命である。そして、ああそうだと気がついて、三日がかりでチューリップの描き方を坊やに教える。
いよいよはじめての図画の時間、この子は得意である。ことに先生が、「今日はみなさん、何でも好きなものを描いてください」ということだったので、まおさら都合がよかった。
坊やはきばってお母さんに教えてもらった通りのチューリップを描いたのである。
次の図画の時間は、「お母さん」という題であった。
教室の机に座って先生の方をみる。
「今日はお母さん絵を描いて先生に見せてくださいね。お父さん、お姉さんでも結構です」
夢みるような目をして、微笑むのも可愛い。お母さんの顔がありありと目の前に見えてくるらしい。
みんなが描きだした。どうもうまくいかない。それでも子どもは楽しい。おばけみたいなお母さんができても、まぶたの奥の笑顔のお母さんにそれが見えるらしい。
その時も先生がふと見られると、一人の坊やが前かがみに左手で隠して、やっぱりチューリップを描いている。
「上手に描けましたね。だけど今日は、お母さんを描いて見せてね」といっても、この子は一向に聞こえぬようにチューリップの花に赤い色を塗っていたという。
その次び図画の時は先生がモデルになって描くことになる。
しかし、困ったことに、先のチューリップ坊やは、この時間も悲しそうにチューリップを描いたのであった。
同じようなチューリップを何枚繰り返し描いても仕方ない。一枚ごとに変わった花ならよいが、この子の場合は、お母さんからがっちりと教え込まれたのであるから、楽しんで描いているのではなく、大きな圧迫のもと、ただ描かねばならないから描いている。
これを読んで思うことはありませんか?
隔たりのないアート展は、毎年開催しています。
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